クロガネ・ジェネシス

第8話 アールの実力
第9話 姉妹再開
第10話 リベアルタワー侵入
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第一章 海上国家エルノク

第9話
姉妹再開



 その日の夜。
 零児は宿の自室で義手の再接着を行っていた。レットスティールからもらった薬品を自分の左腕に塗り、義手を装着して魔力を通す。中々1人では難しい作業だ。
 それが終わって、ベッドに横たわる。考えていたのはアーネスカのあの反応と、アールという仮面の武道家のことだ。
 あの巨体を一瞬で沈めた実力は侮《あなど》れない。
 レットスティールとの契約は、決勝戦まで進んで戦うことだ。だから勝てる必要なんてない。しかし、やるからには勝てたほうがいいに決まっている。しかし、アールの実力はかなり高い。まともに戦って勝てるかどうかは正直分からない。
 もっともいくら頭の中で考えたところで勝てるとは限らないのだが。
 ――まあ、決勝進出は決まったようなもんだし、あまり気にする必要もないか。
 例え負ける可能性が大きいとしても、零児は全力でアールに挑んでいくことに変わりはないのだ。
 それよりも、気になるのはアーネスカが意地でも零児とネルを戦わせようとしていることだ。
 八百長《やおちょう》の戦いになるだろうが、ある程度戦ってからネルに負けてもらうという方法を取ればとりあえずはいいだろう。ネルもそれは了承している。
 なんにせよ、この戦いが終われば零児は完全なる形で左腕の義手を……いや、左腕そのものを手に入れることが出来るのだ。明日の準決勝が終われば、残るは決勝だけだ準決勝と決勝の間には1日挟むから、実質義手を手に入れられるのは3日後になる。
 ――もう寝よう……。  義手を手に入れられることへの期待、アーネスカへの疑問など、考え始めたらきりのないことが多いが、とりあえず明日に備えて体調を万全にしておくことが大事だ。
 それなりに疲れていたせいか、睡魔はすぐに襲ってきた。自分の精神が知らず知らずのうちに乖離《かいり》していくような錯覚に陥りつつ、零児は深い眠りについた。

「さあみんなぁ! いよいよ準決勝よ! 決勝戦に進む人間は2人! その2人を見事当ててみせなさ〜い! さあ、賭けた賭けた〜!」
 翌日。スレンダーな体のラインを惜しげもなく見せている金髪の女性が叫ぶ。太ももから先が丸見えのカットジーンズに白のランニングシャツと言う開放的な姿だ。
「お、じゃあ俺は、ネレスとか言う女拳闘士を……」
 と、早速賭けようとした男がいる。そんな男に金髪の女性は言った。
「え〜女拳闘士の方に賭けるの〜? あたしの分析だと、鉄零児《くろがねれいじ》って男の方が……」
 コロシアムの入り口前で行われているそんなやり取りを見て、零児とネルは半ば呆れていた。
「アーネスカの奴……これが狙いだったのか……」
「みたいだね……」
 金髪の女性とは、無論アーネスカ・グリネイドのことだ。流石に法衣服ではエルマの騎士のイメージダウンになると判断したからなのか、珍しく今回は私服だ。
 アーネスカの狙い。それは、すでに勝敗の決まっている零児とネルの戦いを利用してギャンブルさせることだったのだ。大会が準決勝まで進むと確かに盛り上がる。そこで、なるべく負けることが決定しているネルに賭けさせ、たんまり儲けようという算段なわけだ。
「あ、呆れた……」
 頭を抱える零児。今まで長いこと旅をしていたから金に貪欲になる気持ちが分からないわけではないが……。
「まあ、アーネスカらしいといえば……アーネスカらしいね」
 長年アーネスカと親友をしているからか、ネルはそれをアーネスカらしいと称した。
「ま、いいけどな。あ……」
「お〜い。クロガネェ」
 そこに、前の日も零児の左手の義手を交換してくれたレットスティールが現れた。
「ネル、先行っててくれ。俺もすぐに行くから」
「うん。分かった」
 零児は、レットスティールの元へ、ネルは受付へと向かった。

『さあ、この武大会もついに準決勝! 今日の戦いで決勝戦に残る2人が決定するぞー! 観客の皆さん! 是非最後まで見ていってくれ〜!』
『オオオオオオオオオオオオオ!!』
 アナウンサーのハイテンションな前置きに、会場が沸き立つ。準決勝と言うだけあって、その盛り上がりも半端なものではない。観客席のどこかしらに旗を持った人間もちらほらいる。
『それでは! 今回準決勝を戦う4人の戦士を紹介しよう! 選手番号1番……』

「派手に盛り上がってんなぁ……」
 レットスティールにより義手の交換を終えた零児は、控え室で会場の盛り上がりぶりに驚きながら、そんなことを口にした。
「本当凄いね〜。私こんなに盛り上がるイベント初めてだよ」
 武大会というイベントの準決勝。その盛り上がりに驚いているのはネルも同様だった。
「武大会は、年に一度のお祭り行事だからな。日を追うごとに盛り上がっていくのは当然だろう」
 同じ控え室にいた、仮面の女、アールが呟く。零児とネルはそのアールに視線を向けた。
「なあ、アール」
 零児はそのアールに話しかけた。
「なんだ?」
「決勝で当たることになったら、お手柔らかに頼むよ」
「お手柔らかに……か 悪いが、私は全力でいかせてもらうよ。私に手加減と言う命令《プログラム》は組み込まれていないのでな」
「……?」
 アールの言葉に零児は首をかしげる。
 ――命令《プログラム》? どういうことだ?
『それでは、準決勝進出の、クロガネレイジと、ネレス・アンジビアンはリングに入場してください!』
 詳しいことをアールに問おうとしたが、タイミング良くか、悪くか、零児とネルの入場アナウンスが聞こえてきた。零児は心を切り替える。
「ネル」
「なに?」
「この戦い、八百長にはなるだろうけど、途中までは全力でやらないか?」
「どうして?」
「その方が盛り上がるから」
「いいよ。私はそれで」
「じゃあ、リングの上に上がろう」
 零児とネルは控え室を出た。

『さあ、今、この2日間の戦いを終え、勝ち上がってきた戦士が入場してきたぞー! どちらが勝利してもおかしくないこの戦い、観客の皆さん! 両者を最後まで応援してくれー!』
 極めてハイテンションなアナウンサーの声。会場は今までにないほどに沸き立つ。
 零児とネルはお互いの表情を見つめ合う。
『それでは、準決勝第1試合、クロガネレイジ対ネレス・アンジビアン。試合開始ー!』
 戦いの火蓋は切って落とされた。
 戦闘開始と同時に2人は動いた。互いの1分の隙も見せまいと、疾駆する。
 先に攻撃態勢に入ったのはネルだった。拳を大きく振りかぶり、放つ。
 零児は顔を僅かにずらし、その拳を紙一重で回避した。
「ハッ!」
 そして、右の拳でネルのアゴを狙い打つ。
 ネルもまたその攻撃を紙一重で回避した。同時に空振りした零児の右手首を掴む。
「なに!?」
「そぉりゃっ!」
 零児の右手首を掴んだまま、走り出すネル。その勢いを利用して、零児を投げ飛ばした。
 惰性で宙を舞う零児。しかし、場外になるほどではない。そこまで飛んでは負けてしまう。零児はすばやく着地し、態勢を立て直す。そして、突進。獣の如く疾駆し、低く跳躍した。その勢いで脚を伸ばす。まるで零児の足が巨大なハンマーになったかの如く、ネル目掛けて放つ。
 回避は間に合わない。ネルはその蹴りを受け止めようと、構える。そして、ネルの両手に零児の全体重を乗せた蹴りが、直撃した。
「ぐうっ……!」
 受け止め、勢いが弱まった所で、今度はその足首を掴み、再び投げ飛ばそうとする。
「させるかぁ!」
 零児は余った左足でネルの腹を蹴る。ネルの右手から力が抜け、あっさりと零児の足は自由になる。
 地面に着地し、1回転して膝をつく。ネルもまた、蹴られた腹部にダメージがあったのか、腹を左手で押さえて零児を睨む。
「流石に……全力全快の戦いはきついな……」
「フ……フフ……そうだね。体が熱いよ」
 試合開始からまだ数分と経過していないにも関わらず、すでに2人はかなりの体力を消耗している。当然といえば当然だ。人間として全力の戦いを試合開始と同時にしているのだ。さほど時間が経つことなく疲労が全身を包むんでも、なんら不思議ではない。
『フゥ……フッ!』
 その疲れを吹き飛ばすかのように、2人同時に接近した。互いに拳を構える。拳をぶつけ合うつもりなのだ。
 2人の拳がぶつかり合う。が、ネルの拳は完全に伸びきることはなかった。零児の接近が速すぎたのだ。結果、ネルの拳は弾かれることになり、零児は次の攻撃へ素早く移る。
 零児はネルの腹部に左の拳を叩き込んだ。
 ――今だ! 「ううっ……!」
 ネルが呻く。その隙に足を払い、ネルが仰向けに倒れる。
「うわ!」
 その上に零児が馬乗りになると同時に、短剣、ソード・ブレイカーを抜き、ネルに突きつけた。
 その状態はネルに身動きが出来ないことを意味する。つまり……。
『勝負あり! 準決勝第1試合、勝者、クロガネレイジー!』
 審判の声が高らかに響いた。会場から、零児の勝利を祝福する声が響き渡る。
「ゲームセットだな。ネル」
「そうだね。おめでとうクロガネくん……」
 お互いに晴れやかな笑顔で、その戦いは終わりを迎えた。

 その後の準決勝第2試合は、当然の如くアールの勝利で終わった。
 アールの対戦相手は、零児達が見てきた中では多分最も騎士らしい姿をした戦士だった。アールは先日のテンパランスとの戦いと同じように必要最小限の動きでその戦士を血祭りに上げ、瞬殺。決勝進出を決めた。
 つまり、零児の決勝の相手はアールに決まったのだ。
 そして、その決勝戦は2日後に行われる。2日後の決勝戦で武大会は終わり、同時にアルテノス最大の祭りは終わりを告げることになる。
 準決勝の2つの戦いが消化され、会場は別のプログラムが始まっていた。
 子供が参加できるようなお遊び的な競技や、剣の簡単な指導教室など、いかにもお祭りといった雰囲気が会場とその周囲を包んでいた。
「いや〜! 儲けた儲けた〜!」
 そんな中武大会会場の入り口では、アーネスカが上機嫌で大量の金貨が入った樽に蓋をしていた。今日のギャンブルで儲けた金だ。後に、零児とネルにも分ける予定だ。自分1人が持っているにはあまりにも多い。それだけの額をアーネスカは今回稼ぎ出したのだ。
 宿に持っていくためには、転がしていくしかあるまい。
「そこのあなた」
「え?」
 突然アーネスカに話しかける声。すでに武大会のプログラムは終わっている。ギャンブルも終了した今となっては、自分に用のある人間は、零児やネルといった仲間達ぐらいしかいないはず。
 しかし、今アーネスカに話しかけてきた声は彼らのものとは別の声。即ち聞き覚えのない声だったのだ。  不思議に思い、声の主へと振り向く。そこには褐色の肌を持つ女性がいた。黄土色のワンピース、栗色の髪の毛、釣りあがった瞳。
「! ……まさか」
 息を呑むアーネスカ。懐かしさのあまり言葉が出てこない。それは目の前の女性も同じようだった。

「どうやら、ここで間違いなさそうだな」
「ええ」
 その日の夕方。
 全身白い狼の亜人、バゼルとチャイナドレスを着た猫の亜人、ユウの2人は巨大な塔の目の前にいた。  アルテノスの最大の大きさを誇る、天を貫く塔。通称『双子の時計塔』。方や赤色、方や青色に着色された塔だ。赤い塔を『テレーズタワー』、青い塔は『リベアルタワー』と呼ばれている。2つの塔の周囲は、陸がほぼ全て石畳になっているエルノクでは、唯一の草原となっており、その陸地と他の石畳の陸地とは区別されている。
 彼らがいるのは『リベアルタワー』の前だった。
「この塔に……アルト様が……」
「ギンのにおいもこの塔に僅かに残っているな。それにアミュレットにもアルトネールの反応がある。十中八九、ここで間違いあるまい……」
 2人は謎の侵入者によって連れ去られたアルトネール・グリネイドと言う人間と、ギンの居場所を特定するためこれまで動いてきた。そして、この『リベアルタワー』に2人のにおいが残っていること。そしてアルトネールの居場所を追跡するためのアミュレットが、この塔に反応していること。この2つの要因によって、『リベアルタワー』に2人がいることを突き止めたのだ。
 ――だが、なぜこんな所に……?
 バゼルは不思議に思う。『リベアルタワー』はアルテノスの象徴たる塔だ。そんな有名なところに人を監禁するというのは合点がいかない。
「早速いきましょう! アルト様と、ついでにギンを助けなきゃ!」
「待て!」
 正面から侵入しようとやる気になっていたユウはバゼルによって止められる。
「そう焦るな……。もう武大会は終わっている。侵入するのなら、武大会が盛り上がっていて、人がもっとも少ない時に行くべきだ」
「……でも、武大会は明日は休みになっているし、2日後まで待つなんて……」
 苛立たしげにユウが爪を噛む。早く助けたくて仕方がないのだろう。だが、それはバゼルも同じである。
「お前がアルトネールを助けたい気持ちは分かる。だが、今から行ってこの塔内を探し回っていたら、探索は明日までかかることになる。それに……」
 バゼルはマロリット・グリネイドが行っていたことを思い出す。
『アルト姉さん、さらわれる前に、こういい残していったの。アーネスカを……あの娘達を頼りなさい……って』
「アマロリットは今、己《おのれ》の妹を探している。それが見つかってからでも遅くはない。いずれにせよ、侵入は武大会が最高に盛り上がっている2日後だ」
「……分かりました」
 ユウは渋々ながら納得した。
「とりあえず屋敷に戻るぞ、アマロリットに報告だ」
「はい」
 2人は『リベアルタワー』を後にし、グリネイド家の屋敷へと向かった。

 翌朝。
 零児とネル、シャロンと火乃木の4人はアーネスカに連れられて、歩いていた。
 アーネスカは前日、火乃木とシャロンに、今夜は別の場所で泊まるとだけ告げて、宿に戻ってこなかった。
 が、今日の早朝。朝7時過ぎ。多くの人間が働くために外に出ている時間帯に、アーネスカは突然宿へ戻ってきたのだ。そして、昨日まで宿泊していたダイダローズを出て、5人揃ってあるところへ向かっていたのだ。
「で、どこへ連れていってくれるんだ、アーネスカ」
 いつになく真顔のアーネスカを見て、何があったのか気にしながら、零児はアーネスカに問いかけた。
「あたしの実家よ」
『実家!?』
 アーネスカのその返答に驚いたのは、アーネスカ以外の4人全員だった。
「何で今になってお前の実家に行くんだよ……」
 当然の疑問を、零児はアーネスカにぶつける。今までアーネスカ含めて5人全員で宿を取っていたのだ。それならばアーネスカだけでも実家に向かえばよかったのだ。
「12年……」
「……?」
「12年も家を空けてたのよ。それ以来1度も連絡を取っていない。どんな顔して、家族に会えばいいのよ……」
 零児を含め4人ともそれ以上何を言っていいのか分からなくなった。12年。人が変わるには十分すぎる年月だ。それだけの間家を空けていたのなら、確かに家族に顔を合わせづらいのも分かる。
 それ以降対した会話もないまま、5人は大きな屋敷の前で足を止めた。
「ここよ……」
 そこには12年前と何も変わっていない、アーネスカが良く知るグリネイド家の屋敷があった。
「でっかいお屋敷……」
 その大きさに、火乃木は息を呑んだ。過去自分が住んでいたアルジニスの屋敷も大きかったが、この屋敷もかなり大きい。
「扉がぶっ壊れてるな……」
 零児の言うとおり、これから入ろうとしている扉は人1人が通れるほどの穴が開いている。
「まあ、まずはノックしてみましょう」
 アーネスカが階段を上り、大きな木製の扉につけられた、鉄の輪で扉をノックする。
 しばらくして、扉は開かれた。
 黒いスーツを着た初老の老人だ身長は2メートル前後はある。彼はアーネスカの姿を確認して驚きつつも、深々と一礼した。
「お帰りなさいませ……アーネスカお嬢様……」
 それは、アーネスカにとって懐かしい人物だった。表情をほころばせ、目の前の初老の老人と言葉を交わす。
「久しぶりね、ベンさん」
「私《わたくし》にさん付けは不要でございます」
「そうだったわね」
 いいつつ、アーネスカは穏やかな笑顔で軽く笑った。懐かしさがこみ上げてくるのが分かる。
「アマロ姉さんは、元気?」
「はい、あのお方も、気丈に頑張っておられます。所で、そちらの方々は……?」
 ベンはアーネスカの後ろにいる零児達へ目を向ける。
「あたしの友達。まあ、旅の仲間って奴よ」
「そうでございますか」
 ベンは今度は零児達の方へ一礼する。
「いつもお嬢様がお世話になっております」
「あ、いえ、こちらこそ……」
 とりあえず、この中では唯一の男性である零児が答える。
「立ち話もなんですからこちらへどうぞ、アマロリットお嬢様の元へご案内いたします」
「お願い」
 ベンを先頭に、5人は屋敷の中へ足を踏み入れていく。
 屋敷内部は2階まで吹き抜けになっている大きなホールだった。そこからいくつかの部屋にいけるようになっている。
 2階へ上り、そのうちの扉の1つへと入り、廊下を歩く。その廊下からさらに1つ扉をくぐる。そこはテラスがある大きな部屋だった。外から風が入ってきており、カーテンが風になびいている。赤い絨毯《じゅうたん》が敷かれ、大きなテーブルが中央にある。
 そのテーブルの席に、彼女は座っていた。
「アマロリットお嬢様。言われたとおり、アーネスカお嬢様と、お客様をお連れ致しました」
「ありがとうベン。みんなにお茶をお出しして」
「かしこまりました」
 ベンは一礼したすぐさま部屋から出て行く。
「みんな、紹介するわ。あたしの姉さん。グリネイド家次女の、アマロリット・グリネイドよ」
「この人が……」
「アーネスカのお姉さん……」
 零児と火乃木は口々にそういう。
 肌の色こそ違うが、目つきや顔立ちは確かにアーネスカに似ている。
「どうぞ。自由に座って頂戴」
 アマロリットはそう促すと、紅茶を一口すすった。テーブルの席にはアマロリット以外に、2人の亜人もいた。
「あ、あんた達は……!」
 零児はもしやと思い目を見開く。その2人はアルテノス行きの船に乗っていた亜人だった。即ち、バゼルとユウ。
「偶然と言うものも、中々侮れんな……」
 バゼルは静かにそう言った。
「何? 2人とも知り合い?」
 アマロリットがバゼルの目を見る。零児はいきさつをかなり簡略化して話した。
「なるほどね、まあいいわ。とりあえず、あなた達も座りなさいよ」
 改めて5人は空いている席に各々座る。
「アマロ姉さん。聞かせて。あたし達に何をさせようとしているのか、なぜあたしだけではなく、あたしの仲間達の協力が必要なのか」
「もちろん……話すわ。全部ね」
 そういって、紅茶の水面に移った自分の顔を見る。
 状況をまったく理解できていない零児達は互いに顔を見合わせる。アーネスカ以外の4人はただ、アーネスカについてきただけだ。なぜ自分達がここに来る必要があったのかは、アーネスカ自身も分からないようだった。
「アルト姉さん……アルトネール・グリネイドの能力の1つ、未来予知によって、予見されていた事件。それが2週間前に起こりました。謎の女によってこの屋敷が襲撃され、成す術もなく仲間が1人と、アルト姉さんが連れ去られたのです」
「ちょ、ちょっと待って姉さん!」
 アーネスカが立ち上がりつつ、アマロリットを制止する。
「未来予知って何? アルト姉さんにそんな能力があるだなんて、今まで聞いたことないんだけど……」
「あんたは12年も行方晦ましてたからねぇ。知らないのも無理はないわ」
 アマロリットはアルトネールの能力について話した。
 アルトネールは数万人に1人という割合で生まれてくる『魔術回路』を持っていた。しかも2つも。それは、人間の体内に刻まれた魔力の特殊な流れのようなもの。即ち魔力の通り道が、人間の体にあらかじめ存在しているということになる。
 魔術回路を持って生まれた者は、遅かれ早かれ他の人間には絶対に使うことの出来ない特殊な魔術を身に着ける。いや、身に着けるという言い方は正しくない。『発現』すると言った方が正しい。そして、同じ魔術は1つとして存在しない。
 アマロリットの話では、その発現はアーネスカが出て行った直後だったらしい。
 彼女が発言した魔術は、未来予知と精神感応《せいしんかんおう》の2つだった。前者はその名の通り数日先の未来を予知する能力で、後者は遠隔で人と会話が出来る能力とでも言うべきものだった。
 そこまで話して、アマロリットは続きを話し始めた。
「それ以来、私達はアマロ姉さんとギンという仲間が連れ去られた場所を特定し、あわよくば救出しようと言う計画を立てたの。だけど、アルト姉さんは言ったわ。アーネスカを、あの娘達を頼りなさいって」
「あたし達って……あたしと、その仲間達っていうこと?」
「そういうこと」
「つまりあれか……」
 今まで黙って話を聞いていた零児が口を開く。
「アーネスカを含め、その仲間である俺達に、アルトネールさんともう1人の仲間の救出の手助けをして欲しいと?」
 零児の問いかけ。アマロリットは「その通りです」と答えた。
「情けないかもしれませんが……」
 アマロリットは両肘をテーブルに付き、組み合わせた両手の上にアゴを乗せる。
「私達に戦える戦力は、この子達しかいないの」
 言って、ユウとバゼルに目を向ける。2人とも亜人だ。
「この子達はとても強いわ。だけど、間近でギンとあの女の戦いを見た私には分かる。この2人だけでは、多分勝てない。なるべく多くの戦力が必要だと思ったの。だからお願いします」
 アマロリットは立ち上がって、零児達に頭を下げる。
「あなた達に、是非協力していただきたいのです。もちろん、礼はさせていただきます。どうか、私達に力を貸してくれないでしょうか!」
 零児達は顔を見合わせる。そんな中アーネスカは真っ先に口を開いた
。 「姉さん。あたしもグリネイド家の一員よ。やるわ!」
「俺も協力しよう」
 アーネスカの次に、零児が協力の意を示す。
「人1人さらわれたとなったら、黙って見過ごすことは出来ない。俺に出来ることなら協力させてもらう」 「いいの? 零児」
「ああ。火乃木達はどうする?」
 言われて火乃木とネル、シャロンの3人がそれぞれ目配せする。そして、火乃木が立ち上がった。
「レイちゃんが戦うなら。ボクも戦わなきゃね」
 続いて、シャロン、ネルも立ち上がる。
「私も……」
「私もやるよ。仲間の家族が協力を求めてるんだもの」
 アマロリットの表情が晴れる。
「ありがとう。皆さん……」
「ただ、1つ言わせて欲しいことがある」
 全員がやる気になっている中、零児が口を挟む。
「俺が協力できるのは明後日以降からだ。明日は武大会の決勝戦があるからな……」
「な、なに!?」
 今まで黙って話を聞いていた白の亜人、バゼルが立ち上がる。
「お前、武大会で決勝に駒を進めたのか!?」
「あ、ああ……」
「これは……使えるかもしれん……」
 そう言いつつ、バゼルはなにやら意味深な笑みを浮かべた。
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